郡符木簡

郡司の権威をしめすものとして挙げられるものに郡符木簡があります。郡符木簡とは郡司が配下の人々に様々な命令をくだすときにもちいた木簡で、郡家に関係する全国各地の遺跡から出土しています。「符」とは命令するときにだされる律令の公文書の書式です。郡司は律令で決められた書式に従って人々に命令をだしていたのです。




兵庫県氷上町の山垣遺跡から出土した郡符木簡は、8世紀初めのもので、村人を呼び出すためにつくられたものでした。また、時代は少しあとになりますが、福島県いわき市の荒田目条里遺跡から出土した9世紀前半の郡符木簡は、郡司が自分のもつ田の田植えをさせようと36人の村人を呼び出すために作ったものでした。


では、命令された村人たちは郡符木簡に書かれていた文字を読むことができたのでしょうか?村人たちは文字を習得しておらず、読むことはできなかったようです。郡の役人が村人たちの前で木簡を読み上げることで命令を伝えようとしていたのでしょう。


そうだとすれば、さらに疑問がうかびます。なぜ、村人たちに読めない文字をわざわざもちいて命令をくだしていたのでしょうか?


各地から出土する郡符木簡をしらべてみると、ひとつの共通点が見つかります。それは、どれも長さが約60cmであることです。都で見つかるほかの木簡にくらべると2倍以上の長さです。さらに書かれている文字もかなり大振りです。これは何を意味するのでしょう。


おそらく郡司は村の人々に官人としての自分の権威をしめすために、ことさら大きな文字の木簡を見せつけたのではないでしょうか。村の人々に読めない文字を読んで見せることはそれ自体が郡司の権威をしめす意味になったのでしょう。


また、郡司は財産も蓄えていました。当時、出挙と呼ばれる貸付制度がありました。出挙は地方財政の財源になりましたが、村人たちにとっては重い負担でした。最近では、全国各地の遺跡から、出挙が行われたときの貸し付けの記録や、返納の記録を書き付けた木簡が出土しており、どれほど広くいきわたっていた制度かがわかります。


稲は単に食料としてだけではなく、財産や金銭のような役割も果たしていました。都では和同開珎が広く使われましたが、地方社会ではそれほど流通せず、あいかわらず稲や布といった品物が金銭の役割を果たしていたのです。郡司のような地方豪族は、大量の稲を財産として蓄え、それを人々に貸し付けることで権威を保っていたのです。

 

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