平城京の左京と右京の賑わい

平城京の左京と右京には、それぞれ東市と西市という国が作った市場がもうけられていました。これはおもに、都の役所や官人たちのためにもうけられた市です。塀でかこまれた内部には市人とよばれる人たちが店をだし、正午から日が沈むまで営業していました。



また、発掘調査によって市場のなかを運河が流れていたことがわかっています。運河を利用して全国から物資が集まり、様々なものが売られていたのでしょう。活気あふれる市場のやりとりに大きな役割をはたしたのは708年に発行された貨幣の和同開珎でした。市で売り買いされる色々な商品には和同開珎で値段がつけられるようになります。値段を決めるのは市司とよばれる官人です。長屋王邸宅跡から出土した木簡のなかからは、様々な土器の値段を記したものが見つかっていて、8世紀前半の物価を知ることができます。


そして市には多くの人々が集まります。そのため、見せしめのための処刑が行われることもありました。様々な事件も起こりました。平安時代初めに作られた日本で最も古い仏教説話集「日本霊異記」のなかに、次のような話があります。


聖武天皇のころ、河内国に一人の尼がいました。あるとき尼は、黄色の衣を着た3人に呼び止められる夢をみました。その3人は尼に会えたことを喜び、「このごろ会わないので恋しく思っていました。3日後に平城京の東市で会いましょう」と言って去っていきました。そこで尼は目が覚めました。


そして3日後、尼は夢のなかでいわれたとおり、平城京の東市へ行き、一日中待ちました。しかし、だれも尼を訪ねる人はいません。夕方、市の門が閉まるころ、東の門から入ってきて、「誰か経を買わないか」と大声で売り歩く人がいます。尼の前を通り過ぎ、西の門から出て行こうとしたとき、尼はその経を買おうと思って、その人を呼び止めます。ところが、経を見ると、なんと昔に自分が書き写して盗まれてしまった3巻ではありませんか。尼は言われるまま1巻につき500文を支払って経を取り戻しました。夢にでてきた3人はこの3巻の経だったのです。尼はそれからの毎日、夜も昼も休むことなく、この経を読み続けたということです。


「日本霊異記」は奈良時代に起こったふしぎな話を集めた仏教にまつわる説話集です。この話も実際におこった出来事かはわかりません。しかしこの話で注目なのは、盗まれたものが市に出回っていたということです。似たような話は他の話にも見られ、実際の市の様子をもとに作られた説話のようです。

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